アイアムザヒーロー-ちはやふる第四十七首感想感想(2)

四十七首感想の続きです。


普段は友達思いの太一。
なのに、アレ?妙に冷たい・・
と思えるシーンがこの回にはあります。

そのシーンが結構ポイントかなーと思うので
ちょっと取り上げてみます。



◆アイアムザヒーロー◆


クイーン戦の詩暢ちゃんの姿に触発された千早を見て
「(練習に)つきあってやるかなあ」と考えた太一。

しかし、即座に「ちがう」と自らの態度を否定します。

そして千早から「太一 札持ってるよね?」と話しかけられても
無視して答えない。
聞こえているのに答えない。

これまでの太一では有り得なかった態度です。

 千早のために部活を作り
 千早のことばかり見て
 千早に尽くしてきた太一。
 
そんな太一が、千早からお願いされているのに
これを無視するという暴挙に出た!


なぜ太一はキャラをはき違えるようなことをしたのでしょう。


それは千早が以前に言った一言がきっかけでした。

「来年はA級でみんなライバルでしょ?!
 太一こそ見てないと」

太一は名人戦観戦という自分のための時間を削って
千早の練習に付き合ってやる、という考えを否定し
千早の上記のセリフを思い浮かべた結果
‘千早のことばっか考えて応えてたらダメなんだ’
という結論に至っています。

ここまでの太一はずっと
傍観者」で「応援者」でした。

自分の物語の中ですら主人公になれていなかったんです。

自分の人生なのに「脇役」に甘んじていたんです!
太一の人生において主人公は千早だったんです。

そんな太一がついに踏み出したのがこの回。
‘千早のことばかり考えて応えてたらダメなんだ’
すなわち
 傍観者じゃだめなんだ。
 応援者じゃだめなんだ。
 脇役じゃだめなんだ!!
と強く思っている。


ここまでの人生ずっと脇役に甘んじていた太一
千早自身の言葉を思い浮かべることでついに
千早離れ’を果たすのです。

ついに自分こそが主人公だ!」と自覚して歩みだすのです。

(ここでいう主人公は「ちはやふる」における主人公ではなく
 自分の人生における主人公です)


千早を無視する。

たったこれだけの行動。

他の人間にとってみれば小さな一歩だが
太一にとっては偉大な一歩!!

太一のキャラに合わない行動は
このような大きな意味があったのだと思います。



さて、こうして太一の物語を追ってくると
この先の物語も論理的に推測できます。
(すでに結論自体はこのブログで書いてますが)

8巻で太一が到達したのは
<目標>かるたで強くなりたい
<動機>新にたどりつくため
<手段>そのためにわき目も振らずに頑張る
といったところです。

この中でまだ未熟なのは動機です。

人があるものに‘懸けていく’上で
最も質の高い動機は
その「あるもの」が好きだから、という純粋な思いです。

‘新にたどりつきたいからかるたをやる’では
動機がある意味で不純

新にたどりつくためという動機も持っていて構わないけれど
やはり「かるたが好き」だからかるたをやる
という動機も持たねばならない。
この純粋な動機が一番に来ていなければならない。

同じ作品内の登場人物である千早や新が
「かるたが好きだ!」という最も純粋な思いを持って
かるたに懸けている。
とすると、太一も千早や新と同じように
「かるたが好き」だからかるたをやるところまで到達しないと
『ちはやふる』においては、懸けたことにはならないのです。

というわけで、太一が今後
「かるたが好き」だからかるたをやる
という境地に達することは間違いないでしょう。


以上のことを前提に(そして以上のこと の 前提として)
ちはやふる全体の構造を見ていきたいと思います。

太一の成長はここで1つの到達点を迎えたわけですが
この到達点に至るまでの物語設計が秀逸でした。

それは以下の2つの点。

①太一の成長が順を追って丁寧に描かれていること
②太一にとっての主人公=千早を崩さなかったこと


①太一の成長が順を追って丁寧に描かれていること

これについてはこれまでも語ってきたことですが
総まとめをします(該当記事にリンク張っておきます)。

まず、太一が高校でもかるたをやる(かるた部を作る)と決めたのは
千早のためでした(十首
かるたが大好きだから、ではなく、千早をサポートするために
かるたを続けることにしたのでした。

真面目な太一は一生懸命かるたをやりますが
自分のための動機を持たないまま高校選手権に臨みます。

この高校選手権が大きなターニングポイントでした。
新が復帰を宣言したことと
千早が泣きながら素振りをしていたことに触発されて
明確な動機を持つようになる。
新に向かっていこうと決意する(二十七首

その結果、部活とは関係なく純粋に自分のために
みんなが出ない吉野会大会に出場することを決める(三十五首
動機が出来た結果、自分のために動くことができるようになりました。

しかし、まだ自分が主人公だ、というところまでは到達していませんでした。
動機を忠実にわき目も振らずに行動するほどではなかった
まだまだ‘千早のため’という動機に勝るほどではなかった。

それは、クイーン戦予選で集中する千早を
祈るような思いをもって見つめてしまったり(三十八首
また、ライバルである新に対して「がんばれよ」という
舞台の外側から応援するようなメールを送ろうとしてしまったり(四十首
という行動に表れています。

新へのメールの文面に関しては
原田先生に触発されて
‘対等な形’に変えて送信しているあたり
以前よりは確実に成長しています

が、その数時間後には「行こうぜ 応援」と言って
まだ気持ちが応援者であることから来る行動を取っていて
成長しつつもやはり「主人公」にはなれていなかった(四十三首

そんななか言われたこのセリフ
「来年はA級でみんなライバルでしょ?!
 太一こそ見てないと」
このセリフと千早の姿に心を打たれた太一は
ついに自分の動機を貫徹し
わき目も振らずに行動することを覚え始めたのです(四十七首)

太一はこの四十七首で初めて千早の意志を無視してまで
名人戦を観るという自分のためだけの行動を
取れるようになったのです。

このように太一の成長は
順を追ってとても緻密に描かれています。

多くの漫画は成長を描くとき
小さな成長エピソードを並列的に描いて
あるとき大きく成長する(ブレイクスルー)に至る
という構造をとります。

怒りでパワーアップ、味方の献身を受けてパワーアップ
仲間の一言をヒントにパワーアップなどのように
並列的なエピソードで場当たり的に成長する。

対して、ちはやふるではいま見てきたように
前回の小成長を踏まえて次の小成長を迎え
さらにそれを踏まえて・・・その延長線上に大きな成長がある
という積み上げの構造をとります。

イメージ的には
多くの漫画:1+1+1+1+1=大成長
ちはやふる:1⇒2⇒3⇒4⇒大成長

多くの漫画で前者のやり方が取られがちなのは
おそらく、作者の負担が少ないからでしょう。

後者の成長を描くには
事前にどの場面どこまで成長させるかを設計しておく必要がある。
しかも、読者が飽きないように
前回成長したときとは違ったタイプのエピソードを描かなければならない。

具体的に言うと
太一がある時点で「かるたが好き」だというところまで成長する
ということを決めたとすると
現段階ではかるた好きな太一を描いてはまずくなる。
仮に高3で「かるたが好き」というところまで行くとしたら
高1ではここまで、高2ではあそこまで成長させるということを
ある程度決めておかなくてはならない。

そして、エピソードについても
千早のことばっかり見てしまう太一について
手を変え品を変え描いていかないといけない。

このように、後者の方法(積み上げ方式)は
とても大変だと思います。


だから後者の方法にはなかなかみんな手を出したがらない。

しかし、後者の方法をとったほうが圧倒的にリアルです。

ちはやふるの質の高い物語は
こういう大変な作業を経て作られているのだと思います。



②太一にとっての主人公=千早を崩さなかったこと

②は、①以上に隠れたポイントです。

太一が千早の心を大きく動かす場面
ここまでに何度もあります。

女の子の心を大きく動かす――
これってかなり主人公的っぽいじゃないですか。
なのに、実際の太一の行動を考えると
主人公じゃないんですよね。
そこの描き分けがうまい。

どういうことかというと
まず、太一が千早に大きく影響を与える場面は
・誕生祝い(十三首)
・息をするだけで勝てる(十五首)
・ヒョロくんのデータを出して一番近い仲間なんだよ(十九首)
・引きこもった「行こうぜ 応援」(四十三首)
といったところです。

どの場面も千早が凹んだところを助ける役目です(四十三首は特殊)

ピンチになると助けてくれる王子様
と評価することもできそうです。



普段はどうかというと
普段は千早に強い影響を与えているわけではない。

あくまでセーフティネットにすぎない。

主人公である千早をサポートする役目です。

同じく千早に大きな影響を与える新は
千早に情熱を提供しています。
千早を引っ張る役目です。

ここが完全に描き分けられているのです。


太一が千早に大きな影響を与えながらも
サポート役にしかなれていないのは
作者が意図的にそう描いているからでしょう。

(四十三首は一見引っ張ってるようにも見えますが
 そうではない事に関しては該当記事で書きました)

これが②で言いたかったこと。


①②で見てきたように
ここまでの太一が全く主人公できていないながらも
着実に成長してきたことが分かれば分かるほど
この回に踏み出した一歩がどれほど偉大だったか
認識できるようになると思います。

ここらへんを踏まえて
十首、二十七首、三十五首、7巻、8巻を
通して読んでみると面白いかな~と思います。



蛇足ですが、ぼくがこのブログで
千早と太一がくっつく可能性がかなり高いと主張しているのは
①で書いた太一の成長過程が最大の根拠です。

物語には「因果応報」の力が働きます。
(いわゆる「フラグ」もこの1つ)

太一が成長しきった場合
(かるたが好きだ!まで到達した場合)
その報酬として千早の心ゲットという力が働くはずなのです。

物語の因果応報の力というのは
あらゆる作家が意識しているであろう方法論なので
意識してみると面白いかもしれません。
(先が読めちゃってつまらないという事態にもなり得ますが)



12月半ばに更新すると言っておきながら
半月以上も遅れてしまい大変申し訳ないです。

次は四十八首にいくか
改めて9巻感想を書くか
いま自分の中でホットな二十九首感想(2)を書くか
少し悩み中です。

~アイアムザヒーロー~




漫画『ちはやふる』

 1巻~4巻(一首~二十三首) 各話感想 目次

 5巻~8巻(二十四首~四十七首) 各話感想 目次

 9巻~12巻(四十八首~六十八首) 各話感想 目次


アニメ『ちはやふる』

 アニメ『ちはやふる』 各回感想 目次



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この記事へのコメント

2012年01月04日 00:09
こんにちは。
いつもいつも頭の中では理解したような気持ちになっていたことを
神場さんは明確に言葉に文章にしてくれるなあと思った記事でした。
太一の成長をいかに末次さんが考え抜いて構成しているか、本当に鳥肌が立ちますね。
しかも末次先生の構成はこの後もブレない!
ここから先の太一の成長もまた本当にこのプロセスを継承していて、読んでいる側として何の引っ掛かりもなくカタルシスを得られるのですよね~。

毎回本当に記事楽しみにしてます。
2012年01月04日 13:47
凛さん、ありがとうございます!

太一はここから先も階段を1段1段昇るように成長していきますよね。「何の引っ掛かりもなく」という言葉、ピッタリきますね。
このクオリティで描き続けられるって凄いことですよね。末次さんがどの時点でどこまで想定して描かれているのかを聞いてみたいところです☆

長村梨音
2012年01月05日 01:58
初めまして!
初めてコメントさせていただきます!いつも楽しく記事を読ませていただいてます^^

私もちはやふるが大好きで自分なりに読み込んでいたつもりでしたが、神場さんの解説(という言い方は合ってますでしょうか・・)には本当に感動してしまいます!
自分の読みが全然浅はかだったなーと実感しますね・・神場さんの記事を読んでからちはやふるを読むと、そのすごさや面白さがよりいっそう楽しめます!
というか末次先生すごすぎですね・・太一の成長の描き方が・・もちろん他の面もですが!

私は漫画家志望なので、神場さんの漫画技法的な解説も参考になってすごくうれしいです!

これからもブログ楽しみに待ってます^^
2012年01月10日 22:36
長村梨音さん、はじめまして!

梨音さんは漫画家志望ですか!大きな夢があっていいですねー。そんな漫画家の卵の梨音さんから記事を褒めてもらってとてもうれしいです。
でも、漫画の技法についての考察は、独学にも満たない勝手な想像ですから、あんまり真に受けちゃだめですよ~(^^ゞ
これからもよろしくお願いします。


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